そのときの俺の言動について今動機を考えてみても気が向いたからっていう言い方しかできない。たぶん自覚できないほどの極小の好奇心がそこに入り混じっていたことは認めるけれど。

何となく、邪魔をしてみたかった。





















夏枯れ

#01 逢瀬



























ここは新校舎と旧校舎の間の人気の無い細い中庭のような場所だ。渡り廊下を外れて一歩踏み出せばそこには生きることに貪欲な真緑の雑草たちがまるで何かを覆い隠そうとするかのごとき勢いで覆い茂っている。そのくせに事務員の地道な努力かなにかのせいか、歩くのには苦労しないような、せいぜい膝丈に届くくらいの草がちらほらと生えるばかりとなっており、奇妙なバランスが保たれていた。
何よりそこは校舎2棟にはさまれているせいで日当たりはあまり良いほうではなく、夏にはもってこいの日陰を作ってくれる場所だ。

ここで誰にも邪魔をされずに(ここのベンチに座ると呪われるという馬鹿げた噂も手伝って、寄り付くものがいない)数字をながめるのは俺の数少ない日課であったので、今日も俺はこの場所にふらりと来たわけだ―――































迂闊なことに一次分数変換を頭の中で繰り返していて
その男女に気が付くのが遅れた。


















































































男女はそこで不純異性交遊をしていたわけで、俺としてはかなりまずったと思ったのだが、それより気になったのが、その男女のうちの女のほうと俺の視線がかち合ってしまったことだった。

つまり女のほうはキスやらなんやらをしているくせに目を開けて俺を見ていた。
…ということになる。

 

 



声をかけたのは、本当にただの気まぐれだった。

 




 


「邪魔だったぁ?」

と、間延びした声をかければ、男のほうはそれにびびって女を置いてとっとと逃げてしまった。女はそれを追おうともしない。変なカップルがいたもんだ。


 

「…あんた、何?」

 


それがどういう意味を指すのかわかっているくせに
俺はわざと空とぼけた答えを返す。

「?3年A組名古屋マコト」

女はますます不機嫌そうに眉間に皺を寄せた。
随分、きつい目つきの女だ。
世間一般に言わせればきっと美人なんだろうけど
それ以上に得体の知れない冷たさを感じる。

正直、俺の嫌いなタイプ。

「そうじゃなくて、なんで邪魔したのかって聞いてるの!」

あー怒鳴りだしちゃった。面倒くさいな。

俺は彼女を指差して(指を指されるということが人間にとって圧迫感、緊張、嫌悪を感じる行為だと言うことは重々承知で)
そして意地悪く笑って見せながら言い放った。


「助けてって、目が言ってたよ」


半分言い訳で、半分本当だった。あのときの彼女の目が、ほんの少しだけそういう風に見えたのだ。言い訳になるほどに確信はなかったけれども。

 

 

彼女は変な顔をした。
それは猜疑とほんの少しの好奇の入り混じったような表情だった。

しかしその顔もほんのつかの間のことで、すぐにあきれるような表情に変わる。

 



「あんた、バカでしょ」

捨て台詞のように言い放つと、彼女は雑草を踏み分け
渡り廊下に入ってそのまま新校舎の中へ入って消えてしまった。


俺と雲井千歳は、こうして出会ったのだ。




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