夏 枯 れ

#02 ヘタクソ








千歳は変な女だ。
彼女は俺が数学以外にほとんど興味のない数学バカだということと、いつも校舎の中庭で本ばかり読んでいるのを知って何故かここによく来るようになった。

いくら俺が数学一筋だからといって女にまで興味がないわけではない。その辺は普通の男子高校生と一緒だ。(ただ別に必死になってまで接触したいとは思わないだけで)だからそうやって近づいてくる彼女にも俺は自然に興味を持った。






















































普段の彼女はとても魅力的な女性のようだった。目が合えば笑うし、よく冗談を言ってみんなを笑わせる。会話の流れを読むのが得意なようで、それでいて決して人を不快にさせるようなことは言わない。




































 





















































ここで強調したいのが「普段は」ということだ。
強調する、ということは俺がいるときは全く違うということ。

今隣で膝上15センチ以上のスカートで下着が見えないように器用に座る千歳。(ちょっと位見たっていいじゃないかと内心舌打ちをしつつ)彼女の視線は、そこにある見えない空気にだけ向かっていて、ただ何も感情の挟まる余地がないほどの低い温度のオーラを放ちながら、空気中の一点を見つめていた。

まるで愛想のない彼女は、まるで無関心な俺に数学ってそんなに楽しいの?だの何でそんなにデロデロのシャツ着てるの?だの、どうでもいい話を投げかけた。
投げかけてるという言葉どおり、彼女はその質問を投げてはその辺にぽいっと棄ててしまう。俺もまともに返事はしないし、だからその無意味な言葉たちは、用をなさないまま中庭の土の上に放り出され、夏の気温にあてられ、溶けて蒸発していつもどこかへ消えてしまうのだった。































































































































何故彼女がそんな態度をとるのか俺は知らない。本人が言わないことを聞こうとするほど、俺は人と関わって生きていくことに飢えてはいない。ただ何となく悟ったことは、彼女はみんなが思っているほどできた人間ではない。ということだった。









































































いつものようにキャッチボールにならない質問が俺に投げかけられるのを、ぼんやりと聞き流していたら、彼女がいきなり俺から本を取り上げた。

俺は幾何学の世界に浸っていた気分をいきなり中断され、さも不機嫌だというように見せるよう、眉をひそめた。(別にそこまで不機嫌になったわけではないが、邪魔されるのはゴメンだ)
それでも彼女はその相変わらず感情のこもらない真っ直ぐな瞳で俺をじっと見つめる。俺の目から何か探るでも、何かを訴えるでもない。その真っ黒な瞳孔には、同じように感情の欠片も見当たらない俺の瞳が映り、俺は俺をじっと見詰めているような錯覚に陥る。

セミがジンジンうるさくて、耳はその音をドップラー効果のようにワンワンとゆがませた。少し向こうに見える渡り廊下がかげろうによってゆがんでいたのを思い出し、今日の最高気温は一体何度だったかということを思い返そうとしている間に 















































 























































全くもって彼女の考えていることは予測不可能だった。
俺はただ目を開けたままそれを受け入れて、内心では酷く動揺し、とりあえず呼吸をしたいと思って口をあけた。

するとすぐに彼女は顔を離して、やっぱり何も考えていないような顔をして

















































 































と呟くと、俺の本を芝生の上に放り投げて、渡り廊下のほうへ歩いていってしまった。













セミの声がますます俺の頭の中に入り込んで、ガンガンと響いている。
最高気温は29度。天気のお姉さんの暢気なアナウンスがちらりと頭をかすめたけれど、それよりも何よりも動揺している俺がいて、でもその出来事はまるで他人事のようにくるくるとリプレイを繰り返している。俺は投げられた本の赤さと芝生の緑の鮮やかな対比を眺めて木陰の下でしばらく呆然としていた。












NETX



 

 

 

 

 

 











 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送